発達障害児の理解力アップへの課題 ワンランク上の理解力アップへの挑戦

「経験値が上がると
もっと強くなれる!」RPGの勇者

前回は、「表情から人の気持ちや感情を読み取る練習」およびコミュニケーションの根幹である「協調性」についてお話ししました。

ここまで習得できれば、コミュニケーション能力は相当にあがっていますが、今回はさらにワンランク上の理解力アップに挑戦をテーマにお話しをします。

曖昧な表現はわかりにくい!?

「思い出せない…。」困っているお父さん

私もだいぶ年をとってきたせいか、最近では物忘れが多くなってきました。

妻に言わせると「アレは何だった?」「ソレはどこにある?」と不明確な聞き方が増えてきたようです。

妻からは「アレやソレではわからない。もっと、わかるように言って」と苦言を言われることが増えてきたように思います。

私も「以心伝心という言葉を知らないの。長年連れ添った夫婦では、「アレ」「ソレ」だけで、おおよそ言いたいことが伝わるのではないの」と負けずに言い返しますが、妻はその上をいっているようで、涼しい顔でスルーされてしまいます。

そういえば、発達障害児は、曖昧な表現だと理解することがむずかしいから、何らかの指示をする場合、明確に伝える必要があるとよくいわれていることを思い出しました。

それは、私の息子も例外ではありません。

ですが、今の息子は、発達障害者にもかかわらず、曖昧な指示をしてもある程度、忖度して指示通りにできています。

逆に健常者だって、曖昧な指示を出されたら、うまく対応することができません。

広告

曖昧な表現「少々」って?

悩んでいる犬クン

発達障害者と健常者で比較すると、曖昧な表現だと指示内容を正しく理解できないことが多いのは、発達障害者です。この違いは何なのでしょうか。

例えば、「少々」という言葉で考えてみましょう。料理番組で「お塩を少々」と言われたら、どれくらいなのでしょうか。

料理レシピをみると、調味料の醤油大さじ2とか、みりん大さじ1、さとう小さじ2とかの表現があります。大さじスプーン、小さじスプーンは量が明確なので、これはとてもわかりやすい表現です。

では、「お塩を少々」と言われたら、どれくらいなのでしょうか。

私はわりと料理歴があるので、親指と人差し指でかるくひとつまみということは知っていましたし、その量で特に疑問を感じていませんでした。

ですが、よく考えてみると、男の大人の私の手と女性の手では若干大きさが違います。子どもの手の場合は、もっと小さいでしょうから、親指と人差し指でひとつまみの量にかなりの差がでてしまう可能性があります。

とすると、「お塩を少々」の量はかなり曖昧な表現であり、とても不明確な量です。

なお、インターネット検索で調べてみると、おおよそ「約0.5g(小さじ1/8~/10)」というのが標準的な量のようです。

「曖昧さ」は経験で学んでいくもの

食塩をパラパラ

「お塩を少々」については、手の大きさで塩の量が若干変わりますので、仕上がりの味も若干の違いが出ます。ですが、料理の経験のある方はほとんど気にしないのではないかと思います。

なぜなら、今回は、少し塩辛い味付けになってしまったなと思えば、次回の料理では、塩の量を若干減らしますので、次回以降は、満足のいく料理ができるようになるからです。

「お塩を少々」は約0.5gですから、小さじでは正確な量を量ることは困難です。

今は安価な計量器が販売されていますから、正確に測ることは可能ですが、とても面倒です。味の差はほんの微々たるものですので、通常は、指先の感覚だけで対応される方がほとんどだと思います。

ですが、健常者でも料理初心者には、とても曖昧な表現です。

初心者ですから、手の大きさでの塩加減の量が変わることで、味がどの程度変わってしまうのかもわからないため、仕上がりに不安を感じてしまうかもしれないからです。

経験が大切です

手慣れた様子で調理しているお父さん

ですが、料理を一度でも経験すると、その曖昧さも大した差がないと判断できたり、料理の手順を大まかに理解できれば十分だと判断できるようにもなります。

若干の味の違いも、人それぞれの味の好みの違いの差くらいの範疇だとも考えることもできます。

もちろん、料理のプロを目指すならば、これではいけませんが、日常の食事を作って楽しむくらいであれば、この程度の理解で十分だと思います。

ここで私が申し上げたいことは、曖昧な表現を理解できるかできないかの違いは、経験値しかないのではないかと思っていることです。

前出の「お塩を少々」も、料理を経験する前では良く分からなかったことが、料理をすることを経験することにより、塩の量の曖昧さも料理の出来にそれほど影響がないと判断できるようにからです。

それは、経験者と未経験者の違いですが、健常者と発達障害者でも、同じことが言えるのではないかとも思っています。

曖昧な表現を少しずつ習得した息子

氷の入ったグラス

私は子どもの頃から、コーラが大好きです。今では体重のことを気にしながら、ダイエットコーラをよく飲みます。

大きめのコップに大量の氷を入れ、そこに注いだコーラの味は格別です。暑い季節は、コーラがますますおいしくなります。

お手伝いの一環として、息子には、頻繁に氷の入ったコップとペットボトルのコーラの用意を頼みます。

息子が小学生の頃には、「食器棚にある大きいコップのなかに、氷をたくさん入れて持ってきて」「氷はコップの縁まで入れるんだよ」と丁寧に指示していました。

息子への指示は、息子の成長とともに、徐々に雑になっていきました。「大きいコップに氷を入れてもってきて」から、息子が中学生になった頃には、「氷コップお願い」でも通じるようになっています。

おそらく、健常者でも「氷コップお願い」だけでは、私の指示が正しく伝わるかは微妙なところです。

でも、息子は発達障害児ですが、私の曖昧な指示を理解できていました。この違いは経験値しかありません。

息子は私が指示した「氷コップ」の意味を、過去の経験から理解できていたから、私の指示に正しく対応ができたのです。

逆にいえば、経験値さえあれば、発達障害児でもたとえ曖昧な指示だったとしても、その内容を理解して行動ができるという証明でもあります。これはとても大きなことなのです。

広告

コツコツ経験値を積んでレベルアップ

ホームルームの児童たち

今では、息子は日常生活では、細かい指示が必要なことを除けば、だいたい曖昧な指示でも指示内容を正しく理解してできるようになっています。

ですが、幼い頃や進学や就職で環境が変われば、やはり曖昧な指示では理解することができませんでした。また、知的な遅れもありますから、理解がそんなに早い方でもありません。むしろ遅い方です。

学校生活では、帰りのホームルームで担任の先生から連絡事項の話があります。連絡事項でも重要度の高いものは、親宛のお便りを出してもらえますが、通常の連絡は口頭での伝達がほとんどです。

ですから、息子の場合、早いうちから帰りのホームルームの連絡事項を連絡帳に書き取る練習をさせていました。

学校生活では、先生の指示内容が良く分からないときは、何度でも聞き直すようにするように指示していました。そして、確認した内容は必ずメモに記入するように、徹底させました。

やはり、コツコツと地道に経験値を積んでいくことが生きる力を育てる基本です。経験値を積んでいくことに、早道は無いようです。

息子のこれまでの日常生活、学校での経験値は、今の会社生活でも生かされています。また、今の会社生活のなかでも、少しずつ経験値をあげています。

暗黙のルールも経験値でマスター

映画館

発達障害児は、曖昧な表現だと理解することがむずかしいから、何らかの指示をする場合、明確に伝える必要があるといわれます。

学校生活、特に特別支援学級や特別支援学校では、発達障害児に対する理解がすすんでいますから、できる限り発達障害児に理解できるようにカリキュラムをすすめています。

しかし、一般企業では以前と比較すれば、各段に発達障害に対する理解は進んできていますが、まだまだ不十分な面もあります。また、発達障害者が余暇を外で楽しもうと思ったら、発達障害者にとっては手順がとても曖昧です。

コンビニやスーパーマーケットでは、いちいち「かごに買いたい商品を入れて、レジで精算してください」とは書いていません。外食をするにも、食券制の店舗もあれば後払いの店舗もあります。

大きな映画館では、チケット売り場と入館手続きをする場所が違うところが増えています。指定席も、どこが本人にとって都合の良い席なのかも、わかりづらいかもしれません。

ですが、現在の息子はこれをすべてクリアしています。

最初は、親がかりで教えました。息子も最初はなかなか理解できませんでしたが、何度も経験するうちにやり方を少しずつ習得していきました。別に息子が優れていたわけではなく、すべて経験値によるものです。

そうです。経験すれば誰でもできるようになるのです。

もちろん、個人差がありますので、習得するスピードは違いますが、慣れれば誰でもできるようになると思います。本当に慣れというのはスゴイものです。

最初は分かりやすい表現から始めましょう

RPGのキャラクターたち「勇者・魔法使い・僧侶

経験値でレベルアップできるというのは、ロールプレイングゲームに似ています。

最初のレベルが低いうちはなかなか理解できなくても、レベルアップしていくうちに、徐々にできるようになっていきます。

ですから、あせらずにゲームを楽しむ感覚で、少しずつレベルアップさせるようにしていきましょう。

どんなことでも、初めて習得させるとき、最初は曖昧な表現ではダメです。

明確な表現で、発達障害児にも誰にでもわかるような指示をしなくては、正しく理解することはできません。そして、できるようになったら、徐々に少しずつ曖昧な指示を出すようにすれば、曖昧な表現でもできるようになります。

ただし、個人差がありますので、やはり焦らずに徐々にゆっくりとすすめるようにしていきましょう。

そして、できるようになったら、満面の笑みで褒めてあげましょう。お子さんは褒められることでさらに頑張る姿勢を示してくれることでしょう。

おそらく、お子さんが幼いうちは、その成長はカメのように本当にゆっくりとした歩みです。

本当にイライラさせられるくらいのゆっくりとした成長です。ですが、ある程度の成長をしてくると、習得スピードが徐々に速くなっていきます。

子育てがうまくいくと、親御さんの方がびっくりさせられるほどの成長スピードになることもあります。息子もそうでした。

ですから、あきらめずに焦らずに頑張ってください。きっとうまくいきます。

まとめ

ワンランク上の理解力アップに向けて

  • 曖昧な指示で、指示内容を正しく理解できないのは、発達障害児も健常児も同じ
  • 曖昧な指示で、指示内容を正しく理解するためには、経験値を積む必要がある

具体的に経験値を積む方法

  • 日常生活では、必要な事項を習得させるときは、最初は明確な表現で、発達障害児にも誰にでもわかるような指示をして、正しく理解させる。そして、できるようになったら、徐々に曖昧な指示を出すようにし、曖昧な指示でもできるようにさせる
  • 学校生活では、先生の指示内容が良く分からないときは、正しく理解できるまで何度でも聞き直すようにする。確認した内容は必ずメモに記入して理解するようにする
  • 会社生活では、上司の指示内容が良く分からないときは、正しく理解できるまで何度でも聞き直すようにする。確認した内容は必ずメモに記入して理解するようにする
  • 外出時の買い物、外食、各種の施設利用について、最初は、親がかりで教えながら、何度も経験させる
  • 経験値を積むことに早道はない。コツコツと地道に生きる力を育てることが基本
広告