発達障害児に対するいじめ対策 いじめ問題が深刻化しやすい9つの要因とその解説 ②

前回は、いじめの問題をむずかしくしているケースとして2つご紹介しました。
1つは、発達障害児がいじめの原因となっているケースです。
もう1つは、いじめの解決がむずかしくなるケースです。
後者について、前回にてその一部をご紹介しましたが、今回はその続きです。
いじめの解決を邪魔しようする意思

いじめの解決がむずかしくケースでは、いじめを解決しようとする行動を、邪魔しようとする意志が働くことがあるから、いじめの解決がむずかしくなるのです。
いじめの解決を邪魔しようする意思は、いじめの加害者本人およびその保護者だけではなく、本来いじめ解決に向けて仲介役となるべき学校側にも、そのような感情が働くことがあります。
そして、いじめの解決を邪魔するためには、初めからいじめがなかったことにするのが最も簡単な方法です。
ですから、以下のようないじめ解決が困難になるケースが、生じることがあるのです。
- いじめ解決が困難になる可能性が高いケース
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- 物的証拠などがない
- 目撃者がいたとしても、加害者側からの報復を怖れて証言してもらえない
- いじめの期間が長期間にわたる、または、いじめによる被害が大きい
- 被害者が発達障害児の場合、証言能力がないとか低いと言われることが多い
- 加害者がいじめを否定する(プロレスごっこだった、ちょっとからかっただけなど)
- 担任の先生の問題解決能力が低い、または、いじめなどの問題から逃げたがる姿勢など
- 加害者の保護者もわが子かわいさに、いじめを否定する
- 加害者の保護者がPTA幹部、または、地元の有力者
- 上位の先生(学年主任、教頭、校長)が、いじめを肯定したがらない
【3】いじめの期間が長期間にわたる、または、いじめによる被害が大きい

いじめが長期間にわたっていることは、もう、それだけで深刻な問題だと言えると思います。
いじめの期間が短期間でも、被害者が大怪我を負うなど被害が大きくなることがあります。
そういう状況だと、いじめの加害者やその保護者にどのような影響を及ぼすでしょうか。
いじめの加害者は、その事実におののいて責任を逃れようとする傾向が高くなります。
また、その保護者は、わが子が原因で生じた被害に対して、保護者としての管理監督責任が生じます。
高額な損害賠償請求をされる可能性が高い状態ならば、やはり、その責任から逃れたいという衝動にかられるのではないでしょうか。
さらに、いじめが学校内や登下校中に行われたものや、もともと学校内での人間関係から生じたいじめであれば、学校関係者にもそのいじめに関して管理監督責任の追及が行われる可能性があります。
担任の先生やその上位の先生も、その責任から逃れたいという感情が働いてもおかしくありません。
その証拠に、昨今いじめでニュースになったりする重大なケースでは、いじめの加害者やその保護者、さらには学校関係者についても、いじめを素直に認めて謝罪するケースはとても少ないように思います。
第三者の立場でみると、真摯にいじめ問題の解決に取り組んでいたり、深く反省しているようにはとても思えないような事案が散見されるのは、気のせいではないように思います。
【4】被害者が発達障害児の場合、証言能力がないとか低いと言われることが多い

前回、いじめの問題の解決には、証拠の保全がとても大事だということをお話ししました。
いじめの被害者が健常児の場合には、被害者自らがいじめの証拠を保全する機会が多いと思います。
また、健常児の場合には、被害者自身の証言能力が疑われることは少ないように思います。(ただし、証言の真偽が疑われることはあるかもしれませんが…)
ところが、いじめの被害者が発達障害児の場合には、被害者がいじめられていた状況について、うまく説明ができないことが多いです。
証言能力の低さを指摘されて「妄想じゃないのか」とか言われて、証拠として不十分とされてしまうケースが少なくないように思います。
息子のいじめがわかったのは、小学校4年生のときでした。
その頃は、息子は同級生と比較すれば説明能力はあまり高くありませんでしたが、いじめの状況を説明することは十分に可能でした。
息子がいじめの状況を説明することができた理由は、普段から息子とコミュニケーションを十分に取っていたからです。
息子との毎日のコミュニケーションについては、こちらをご参照ください。
私は、息子から聞き取りした内容を時系列にまとめて、学校側との話し合いに臨みましたが、ここまでしても、息子の証言能力に疑問があるようなことを言われて、憤慨した記憶があります。

【5】加害者がいじめを否定する(プロレスごっこだった、ちょっとからかっただけなど)

いじめの加害者がいじめを認めない場合、いじめの証拠や目撃者の証言などの客観的にいじめがあったと証明できるものがないと、いじめ解決がかなりむずかしくなります。
加害者の保護者には、わが子のことを信じたいという気持ちが働きます。学校側としても、いじめがあったとする明確な証拠がないと、加害者がいじめを否定している以上、話をすすめづらい事情があると思います。
ただし、加害者が「プロレスごっこだった」とか「ちょっとからかっただけ」などと主張している場合には、いじめと認定できる可能性が高いと思いますが、学校側の対応が悪いとウヤムヤにされてしまうので、注意が必要です。
こういった加害者側の主張は、いじめの責任から逃れたいがために良く使われる理屈です。
加害者側の身勝手な理屈を排除するには、「いじめの定義」について十分理解しておく必要があろうかと思います。
「いじめの定義」については、文部科学省に定義したものがありますので、下記をご参照ください。
この「いじめの定義」では、「『いじめ』に当たるか否かの判断」を「いじめられた児童生徒の立場に立って行うものとする」としています。
加害者側にとっては「プロレスごっこだった」とか「ちょっとからかっただけ」だったとしても、被害者がどのように受け止めているかが問題になるのです。

したがいまして、いじめかどうかの判断をするのに、加害者の意見は関係ありません。
いじめられた側が「いじめられた」と主張すれば、それは「いじめ」と判断されるということなのです。
こういった事案では、既に文部科学省がずいぶん前から「いじめの定義」について明確にしていますが、学校の現場では、この文部科学省が定義している「いじめの定義」の存在を知らない先生が結構いるので驚かされます。
ですから、加害者側の主張も一理あるとして、ちょっとした悪ふざけで片づけられてしまう怖れがありますので、十分注意が必要となります。
しかし、この「いじめの定義」を事前に知っていれば、そのような理屈は通らないことを、学校関係者に理解させることができると思います。
<ご参考>
いじめの定義(「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」における定義)
・平成24年度調査より破線部を追記。本調査において、個々の行為が「いじめ」に当たるか否かの判断は、表面的・形式的に行うことなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行うものとする。
「いじめ」とは、「当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの。」とする。なお、起こった場所は学校の内外を問わない。
この「いじめ」の中には、犯罪行為として取り扱われるべきと認められ、早期に警察に相談することが重要なものや、児童生徒の生命、身体又は財産に重大な被害が生じるような、直ちに警察に通報することが必要なものが含まれる。これらについては早期に警察に相談・通報の上、警察と連携した対応を取ることが必要である。
(注1)「いじめられた児童生徒の立場に立って」とは、いじめられたとする児童生徒の気持ちを 重視することである。
(注2)「一定の人間関係のある者」とは、学校の内外を問わず、例えば、同じ学校・学級や部活動の者、当該児童生徒が関わっている仲間や集団(グループ)など、当該児童生徒と何らかの人間関係のある者を指す。
(注3)「攻撃」とは、「仲間はずれ」や「集団による無視」など直接的にかかわるものではないが、心理的な圧迫などで相手に苦痛を与えるものも含む。
(注4)「物理的な攻撃」とは、身体的な攻撃のほか、金品をたかられたり、隠されたりすることなどを意味する。
(注5)けんか等を除く。ただし、外見的にはけんかのように見えることでも、よく状況を確認すること。
【参考】平成17年度以前の定義は以下の通り。
この調査において、「いじめ」とは、「①自分より弱い者に対して一方的に、②身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、③相手が深刻な苦痛を感じているもの。なお、起こった場所は学校の内外を問わない。」とする。
なお、個々の行為がいじめに当たるか否かの判断を表面的・形式的に行うことなく、いじめられた児童生徒の立場に立って行うこと。
いじめの問題に対する施策(いじめの定義):文部科学省
- いじめ解決が困難になる可能性が高いケースについて
-
いじめを解決しようとする行動を、邪魔しようとする意志が働くことがある
- いじめの加害者本人およびその保護者だけではなく、本来いじめ解決に向けて仲介役となるべき学校側にもそのような感情が働くことがある
【3】いじめの期間が長期間にわたる、または、いじめによる被害が大きい
- いじめの加害者は、いじめの被害の大きさにおののいて、責任を逃れようとする。その保護者は、わが子が引き起こしたいじめの損害賠償責任から逃れようとする。学校関係者もいじめに関して、管理責任追及から逃れたいという感情が働く
【4】被害者が発達障害児の場合、証言能力がないとか低いと言われることが多い
- いじめの被害者が発達障害児の場合には、被害者がいじめられていた状況について、うまく説明ができないことが多いため
【5】加害者がいじめを否定する(プロレスごっこだった、ちょっとからかっただけなど)
- 文部科学省の「いじめの定義」では、「『いじめ』に当たるか否かの判断」を「いじめられた児童生徒の立場に立って行うものとする」としている。加害者側にとっては「プロレスごっこだった」とか「ちょっとからかっただけ」だったとしても、被害者が「いじめられた」と主張すれば、それは「いじめ」と判断される
今回はここまでです。次回も、いじめ問題が深刻化しやすい要因についての続きです。お楽しみに。
