発達障害児に対するいじめ対策 いじめ問題が深刻化しやすい9つの要因とその解説 ③

前回は、いじめの被害が大き過ぎると加害者本人及びその保護者、学校関係者がいじめで問われる責任問題から逃れたいという感情が、働くことがあることについてお話ししました。
また、いじめ被害者が発達障害児の場合、いじめられても客観的にいじめられた状況をうまく説明するのがむずかしいために、証言自体の信ぴょう性が低いと言われかねないことも、お話ししました。
さらに、文部科学省が定義した「いじめの定義」についても、ご紹介しました。今回は、前回の続きです。
- いじめ解決が困難になる可能性が高いケース
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- 物的証拠などがない
- 目撃者がいたとしても、加害者側からの報復を怖れて証言してもらえない
- いじめの期間が長期間にわたる、または、いじめによる被害が大きい
- 被害者が発達障害児の場合、証言能力がないとか低いと言われることが多い
- 加害者がいじめを否定する(プロレスごっこだった、ちょっとからかっただけなど)
- 担任の先生の問題解決能力が低い、または、いじめなどの問題から逃げたがる姿勢など
- 加害者の保護者もわが子かわいさに、いじめを否定する
- 加害者の保護者がPTA幹部、または、地元の有力者
- 上位の先生(学年主任、教頭、校長)が、いじめを肯定したがらない
【6】 担任の先生の問題解決能力が低い、または、いじめなどの問題から逃げたがる姿勢など

学校の先生の専門分野は、子どもに教育を施すことです。
「先生」と呼称されていますが、一般の方々と比較して、さまざまな能力が特別高いということはありません。
逆に普段は子どもだけを相手にしていることから、世間知らずなところもあると思います。
にもかかわらず、いじめ解決やその仲裁役といった、相当に困難な役回りを期待されているのです。
しかしながら、いじめ解決やその仲裁については、相当に高度なスキルが求められる難題です。
一般企業のサラリーマンでも、そのような高度なスキルをもつ人はそう多くはありません。
ですが、一般企業には、そういった案件のプロがいます。さまざまな問題解決におけるプロです。
顧客の苦情対応の専門職やコンプライアンス部門の専門職が、そういった案件のプロです。

相当の知識と経験をもった方々ですが、それでも毎回毎回の案件が難問なのですから、まったくの素人である学校の先生ならば、いじめの解決は相当に困難な難問なのです。
私自身、息子のいじめ解決については、教育委員会も巻きこんで徹底的に戦いましたが、最終的な解決までには数年を要してします。
ですがその間、問題解決に関してさまざまなスキルや問題解決に向けてのノウハウを獲得できたと思っています。
私は一般企業でコンプライアンス部門の専門職を7年以上経験していますが、残念ながら、息子のいじめ問題を解決した後での経験です。
もしも、息子のいじめ問題が発生する前に経験していたら、もっと早く解決できただろうと思っています。
ですが、今ではいじめ問題に関するノウハウの相当の蓄積もあるので、みなさんにその情報をご提供ができるのです。
ですから、現状では学校の先生が深刻ないじめの問題に関して解決するのは、相当むずかしいと考えています。
また、先生同士も組織として一枚岩ではないことが多いですから、いじめの問題が発生しても、学校全体として取り組むことは稀だと思います。
現実には、担任の先生が独りでいじめ対応をせざるを得ない状況で、独りで悩んでしまうといった構図もあります。

ですから、いじめの問題の解決能力の低い先生は、安易な対応をして問題をさらにこじらせてしまうこともあります。
または、うつ病を発症してしまうことも少なくないと思います。
学校の先生の休職が多いのも、いじめの問題だけではないと思いますが、学校内で孤立しやすい状況と無関係ではないと思います。
また、学校の先生は、自ら孤立しやすい状況をつくっているとも考えています。
先生は置かれている環境の影響かもしれませんが、一般の方々と比較してプライドがとても高い方が多いと思います。
ですから、いじめの問題などが発生して、その問題が自分の能力を超えていたとしても、自分の評価が下がることを恐れたり、自分の能力が低いと周囲の先生に悟られまいとして、無理な行動に出たりもします。
問題をうまく消化できずに、うつ病などを発症してしまうこともあります。

または、いじめなどの重大な問題から逃げようとする行動をしたりもします。
ですから、いじめ問題においても、なかなか解決しにくい状況になったりするのだと思います。
今の学校におけるさまざまな問題を解決するためには、先生の意識改革や学校という組織、教育委員会という組織の見直しも必要なのかもしれません。

特に教育委員会については、戦前の軍国教育の反省から各自治体からは、独立した組織になっています。
戦後のしばらくの間はそれで良かったのかもしれませんが、現状の教育委員会は、子どもたちのためというよりは、組織防衛に汲々としているようにも見えます。
しかし、教育委員会はあくまでも独立組織となっているため、行政から見て教育委員会の在り方への問題提起があったとしても、自分にとって都合の悪いことは、シャットアウトできる構図になっています。
教育委員会自体に自浄作用がないのであれば、今の体制自体を見直す必要もあろうかと思います。
本当に子どもたちのための教育を考えたとき、現状の教育委員会という組織の在り方、学校という組織の在り方を見直す時期に来ているようにも思います。
【7】加害者の保護者もわが子かわいさに、いじめを否定する

これは前回の「【3】いじめの期間が長期間にわたる、または、いじめによる被害が大きい」にも関連しますが、親というものは、わが子を信じたいという感情が働くものです。
もしかしたら、わが子がいじめをしているかもしれないと思われる状況でも、わが子がいじめをしたことを否定していれば、最後までわが子を信じたいというのも親心です。
加害者の保護者のなかには、わが子がいじめをしていることがわかったうえでも、わが子をかばう行動をすることがあります。
いじめだとわかっていても、わが子かわいさに、前回の「【5】加害者がいじめを否定する(プロレスごっこだった、ちょっとからかっただけなど)」にも関連しますが、「いじめではなく、単なる悪ふざけだった」「ちょっとじゃれ合っていただけ」などと言い訳をして、わが子をかばってしまう傾向もあると思います。
さらに酷いケースでは、深刻ないじめでわが子によるいじめにより、高額の損害賠償請求がされそうになった場合には、その責任から逃れたいがために(わが身のかわいさに)いじめがあったことを認めようとしない保護者もいます。
いずれにしても、いじめの被害者からみればとても身勝手な理屈です。しかし、現実にはこういったことが少なからず起こるのも事実なのです。
「【3】いじめの期間が長期間にわたる、または、いじめによる被害が大きい」「【5】加害者がいじめを否定する(プロレスごっこだった、ちょっとからかっただけなど)」については、こちらをご参照ください。
【8】加害者の保護者が PTA幹部、または、地元の有力者

誰もが身内には甘いものです。学校側にとっては、PTAという組織は教育体制のなかでは車の両輪のような関係です。
持ちつ持たれつの関係でもあります。なかでも、PTAの幹部ともなれば、学校関係者に強い影響力があったりもします。
ですから、いじめ加害者の保護者がPTA幹部の場合には、学校側はPTA幹部に肩入れしてしまう傾向にあります。
PTAの幹部になる方は、人格者もいらっしゃることと思いますが、そうでない方がなることも少なくないと思います。
学校の先生も残念ながら、人格者ではない方がその職に就いていることも少なくないと思います。
昨今のいじめ事件で報道された案件のなかには、いじめの加害者の親がPTAの幹部で、問題が相当にこじれた案件が複数あったと記憶しています。
また、最近では、いじめではありませんが、PTA会長が同じ学校の児童に対する事件も発生しています。
私の息子のいじめも、いじめ加害者の親がPTA幹部だったため、初期の学校側の対応は中立の仲介役とはとてもいい難いものでした。
PTA幹部に対する露骨な肩入れは、見ていてとても不愉快でしたし、そのためにいじめの解決に相当の時間がかかりました。
学校の先生のなかでも、校長先生または教頭先生ともなると、地域のさまざまな団体とも交流があります。
地元の有力者とも強いパイプができていると考えた方が良いと思います。
ですから、いじめ加害者の保護者が地元の有力者やその関係者の場合にも、上記と似たようなことが起きかねませんので、注意が必要です。
【9】上位の先生(学年主任、教頭、校長)が、いじめを肯定したがらない

上位の先生が、いじめを認めたがらない状況があります。
「【3】 いじめの期間が長期間にわたる、または、いじめによる被害が大きい」「【8】 加害者の保護者がPTA幹部、または、地元の有力者」にも関連しています。
【3】 では、いじめの被害が大きい場合、学校側の管理監督責任を追及される恐れがあります。【8】については、上記のとおりです。
なお、「【3】 いじめの期間が長期間にわたる、または、いじめによる被害が大きい」については、こちらをご参照ください。
上位の先生が校内のいじめを認めたくない理由は、他にもあります。
私は学校の先生の評価基準は知りませんから、あまり確かなことは言えませんが、いじめの発生件数やそのいじめに対する対応状況なども、先生の評価基準に関係するとすれば、それも関係あるかもしれません。
学校側の管理監督責任を問われるような事態になれば、何らかの処分が生じる可能性があります。そのような状況では、自己保身に走る傾向もあります。
いじめの状況によっては、警察対応も考えられますが、学校側としては警察の捜査などがあることは不名誉なことです。
その可能性がある案件については、できる限り事件化することは避けたいという感情が働くと思います。
いじめ解決の障害はさまざま。まずは、お子さんの心のケアを。

いじめが深刻化する可能性のある要因について、内容を深く掘り下げて、これまでお話しをしてきました。みなさんの参考になったでしょうか。
いじめを解決するのは容易なことではありませんが、あなたのお子さんのいじめを解決するためには、さまざまな状況を加味しながら少しずつ進めていく必要があります。
また、状況によっては、いじめの解決よりも優先的にお子さんの心のケアをしてあげる必要もあります。
または、いじめの解決自体をあきらめざるを得ないこともあるかと思います。
いじめ解決が困難だとしても、お子さんを守る必要がありますから、転校なども視野に入れてお子さんのことを最優先に対応しましょう。
加害者側、学校側との話し合いの際には、話し合いを進めるのと同時に、今、あなたが置かれている状況について、冷静に判断する必要があります。
わが子のいじめの問題がすぐに解決できる状況なのか否かについての判断は、これまでお話しした「いじめが深刻化する可能性のある要因」のなかで、該当するものがあるかどうかで判別ができると思います。
そのうえで、いじめ解決を優先させるのか、わが子の転校や転籍を優先させるべきなのかの決断をすれば良いかと思います。
なお、何度も申し上げますが、その際のお子さんへの対応については、緊急避難的に学校を休ませることはアリですが、「不登校」や「保健室登校」の選択だけは絶対におすすめできません。その理由については、こちらをご参照ください。
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- 発達障害児に対するいじめ対策 いじめ問題が深刻化したときに、親として取るべき選択は? ①いじめ解決が困難な場合、親として取るべき現実的な対応は…。まずは、お子さんのメンタル面でのケアを優先。そして…。
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- 発達障害のお子さんの不登校、保健室登校の危機! そのとき、学校の対応は?発達障害児にとって普通学級は、過酷な環境です。障害特性からいじめの対象になりやすく、授業についていくのも徐々に困難になっていく。最善の選択肢を考えていきましょう。
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- 発達障害のお子さんの不登校、保健室登校の危機! 不登校の現実とその将来は?親御さんがもっとも気をつけるべきことは2つ! お子さんを「ひきこもり」「不登校」にさせないこと。お子さんの最終目標は、あくまで将来の幸せな生活(就労の実現)
- いじめ解決が困難になる可能性が高いケースについて
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【6】担任の先生の問題解決能力が低い、または、いじめなどの問題から逃げたがる姿勢など
- 学校の先生は、問題解決能力が特別高いわけではなく、深刻ないじめを解決するのはむずかしい。先生が単独でいじめ対応をせざるを得ない状況では、独りで悩んでしまうといった構図もあり、逃げる傾向もある
【7】 加害者の保護者もわが子かわいさに、いじめを否定することがある
- 加害者の保護者のなかには、わが子がいじめをしていることがわかったうえで、わが子を庇う行動をすることがある
【8】 加害者の保護者が PTA幹部、または、地元の有力者
- PTAの幹部は学校関係者に強い影響力があり、いじめ加害者の保護者がPTA幹部の場合には、学校側はPTA幹部に肩入れしてしまう傾向がある。地元の有力者の場合も同様
【9】 上位の先生(学年主任、教頭、校長)が、いじめを肯定したがらない
- 学校側の管理監督責任を問われるような事態になれば、何らかの処分が生じる可能性があり、そのような状況では、自己保身に走る傾向もある
今回はここまでです。
いじめ対策について、6回にわたってご紹介してきましたが、情報量が多すぎて混乱された方がいるかもしれません。
ですので、次回はこれまでの総集編として、これまでのまとめをご紹介します。お楽しみに。
