発達障害のお子さんの就労を実現するために 阻害要因を回避するには(1)普通学級編

前回は、就労を実現するための最低条件について、お話ししました。また、発達障害のお子さんの就学先の環境に、親御さんがあまり良くない意味で流されやすい傾向にあることを、お話ししました。今回は、後者について詳しくお話しします。
- <就労を実現するための最低条件>
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- 最低限の学習能力(簡単な読み書き能力、簡単な四則計算能力、簡単な判断能力)
- 就労スキル(清掃の仕事の場合は、清掃に関するスキル)
- ある程度の体力
- 最低限のコミュニケーション能力
- 協調性
「就労を実現するための最低条件」については、こちらもあわせてお読みください。
発達障害のお子さんの就学先は、普通学級、特別支援学級、特別支援学校のいずれかを選択することになりますが、最も重要なことはお子さんに合った就学先を選択することです。お子さんに合った就学先とは、お子さんが無理なく自分のペースで、就労を実現するための最低条件を習得できる環境です。
就学先候補としての普通学級
発達障害児にとって普通学級は、とても過酷な環境です。学習面ではついていくのがとても大変ですし、発達障害児に対するいじめが発生しやすい環境でもあります。ですが、発達障害を抱える親御さんのなかには、お子さんの能力の高低にかかわらず、お子さんの就学先として普通学級を希望される方は、非常に多いです。私は、過去に発達障害児の親の会を運営していましたが、参加されていたお母さんも、そのほとんどがわが子の就学先として、普通学級を希望されていました。
親御さんが、わが子の就学先として普通学級を希望される理由はさまざまです。その主な理由は、学習面で普通学級にいないと遅れが生じてしまうのを不安に思っていたり、健常児と一緒にいる環境ならば、わが子のコミュニケーション能力の向上が期待できるからなどでした。
私自身、息子の就学先として小中学校は普通学級を選択していたので、親御さんの気持ちは十分すぎるくらい理解していました。ですが、普通学級の厳しい現実も知っていましたので、これからお子さんを普通学級に入れる予定の親御さんには、普通学級の厳しい現実や普通学級でうまくやっていく方法についてなど、さまざまなアドバイスをしていました。
その結果もさまざまです。ある程度うまくいったケースは、お子さんの能力が普通学級で求められる能力に達しているケースです。うまくいかなかったケースは、お子さんの能力が普通学級で求められる能力に達していないケースです。人数的には後者のケースの方が圧倒的に多いです。
残念ながら、うまくいっていないケースでは、私のアドバイスがうまく届かなかった(聞いてもらえなかった)方が多いです。ですから、私自身もどうしてわかってもらえなかったのだろうと、ずいぶんと悩んだのです。こんなに私自身も悩むくらいなら、もうアドバイスは控えるべきなのではないかとも思ったものです。
ですが、なぜ、こんなあまり良くない話をするかと言えば、これからお子さんの就学先を検討される親御さんには、やはり、就学後に後悔して欲しくないからです。就学後の不幸なケースを少しでも減らしたいと思うからです。そして、お子さんの就学先の検討を、本当に慎重にしていただきたいからです。
上記の普通学級に発達障害のお子さんを入れる理由として、学習能力およびコミュニケーション能力の向上のメリットをあげる親御さんがいましたが、それを期待できるケースは少ないと思います。発達障害児は知的な遅れを伴うことがあるため、学習面においては、家庭学習で十分にカバーしてあげないと、教室内では、ただ席にすわっているだけになってしまいます。私の息子もそうでした。ですから、息子には家庭学習で学力の向上をはかり、授業内容をある程度は理解できるように努力しました。
また、健常者の近くにいるだけでコミュニケーションが自然に発生する可能性は低いと思います。なぜなら、コミュニケーションの基本は協調性であり、協調性がある程度育っていないと、健常児との交流はむずかしいからです。それどころか、いじめの対象となってしまうだけかもしれません。ですから、息子には幼い頃から協調性を重視した子育てを続けてきたのです。
ここではサラッと書いていますが、現実にうまくいかなかったケースでは、親御さん、お子さんともに、担任の先生、他のクラスメートおよびその保護者とのトラブルなどで、心身ともに疲弊してしまうケースを数多く見てきました。いじめなどで、お子さんが二次障害を発症してしまうこともあります。悲しいですが、こんな現実もあるのが普通学級なのです。
普通学級でうまくいく可能性のあるケースは、①お子さんの能力が普通学級で求められる能力に達している場合、②お子さんの能力が普通学級で求められる能力に達していない場合でも、その不足部分を親御さんがカバーできる場合です。
元々、わが子を普通学級に入れた親御さんの目的は、わが子の学習能力とコミュニケーション能力などの向上だったはずです。親御さんがわが子に良かれと思ってした普通学級への選択ですが、普通学級でのトラブルなどへの対応でいっぱいになってしまい、本来の目的がおざなりになってしまうことが、ままあるのです。普通学級という過酷な環境のなかで、親御さん、お子さんともに望まない状況に流されてしまい、お子さんの成長が阻害されてしまう傾向があることを、ぜひ知っておいていただきたいのです。
ここで懸念されることは、あなたのお子さんが普通学級でうまくいかなかった場合、本来習得できたであろう、前述の「就労を実現するための最低条件」の各項目のスキルを習得できないリスクが生じることです。普通学級では、就労が実現できる可能性が低くなるばかりでなく、お子さんの二次障害のリスクも生じることもありますから、そういった事態に陥らないようにしていただきたいのです。
発達障害のお子さんの就学先の選択は、本当にむずかしいと思います。就学先の選択は慎重に行うべきなのは理解していたとしても、では何を検討すべきなのか、どんな事項に注意すべきなのか教えてくれる資料は、これまでにもあるにはあったのですが、現実的な対応が書かれているものはとても少ないです。
就学先でどんな問題が生じる可能性があるのか、担任の先生や他のクラスメートおよびその保護者とは、どのようにつき合っていけばいいのか、まったくわかりませんでした。実際、私自身も息子の就学先の選択には、とても悩んだ記憶があります。
ですから、息子を普通学級に入れた後は、さまざまな問題と直面しましたが、1つ1つ解決してきました。そしてその結果、小中学校時代は、いじめが発生した時期もありましたが、総じて息子自身は楽しい学校生活を過ごせたのではないかと思っています。
おそらくみなさんも、私が経験したような状況にお悩みになっていることと思います。ですから、これまでの経験をもとに、学校内でのトラブルの解決やトラブルを回避した方法などをCD-ROM書籍にまとめてみました。
親御さんのお悩みは、①これから入学されるお子さんの就学先の選択をどうしたらいいのか、②既に就学先を選択し入学したけれども、さまざまな問題が発生している、①②の両方があると思います。既に入学したとしても、そこで問題があるならば、親御さん、お子さんにとっては無理のある環境なのかもしれません。その場合、改めて行うお子さんの就学先の再選択に際しても、とても参考になると思います。あなたのお子さんの就学先の選択にあたり、検討すべき事項、注意すべき事項などを詳細に説明しています。
また、就学先の選択に加えて、就学後のトラブルなどの問題など、起こり得る問題およびその問題の解決に向けての対策などについて、幅広く対応していますので、きっとあなたのお役に立てると思います。

今回はここまでです。次回は、特別支援学校において、発達障害児の親御さんが陥りやすい問題点について、お話しします。お楽しみに。
- あなたのお子さんを普通学級に在籍させた目的
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- お子さんの学力面の向上、コミュニケーション能力の向上を期待
普通学級の現実は、いじめの問題などのトラブルが発生し、その対応に追われて親子で疲弊して、必要な子育てができなくなってしまう
- 親御さんが、お子さんの就学先の環境に流されてしまう
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- 「就労するのに必要な最低条件」のスキルを習得させることができなくなってしまう…